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最高裁判所第一小法廷 昭和35年(オ)1120号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人平岩忠次郎の上告理由について。

原判決の確定したところによれば、被上告会社が昭和三〇年七月二〇日本件株主総会を開催し、同株主総会において訴外渡部和市、小川正嘉、市川富治、中間春吉および飯田春吉の五名を取締役に選任する決議がなされたこと、被上告会社の定款二一条「株主は他の株主に委任してその議決権を行使することができる」旨を定めていること、本件株主総会において、被上告会社の二〇〇〇株の株主である石川初次の代理人として議決権を行使した広瀬定男は、同会社の株主ではなかつたこと、訴外小松周海は本件株主総会の招集当時より引続いて被上告会社の株主名簿に記載されている四〇〇〇株の株主であること、被上告会社は本件株主総会に当たり、右小松に対し株主総会招集の通知を発していないことが、それぞれ認められ、また、被上告会社の大株主および株主の有志が昭和三〇年六月二八日株主委員会を設け、同委員会において前記渡部、小川、市川、中間および飯田の五名を同会社の取締役として新たに推せんしたこと、被上告会社の本件株主総会当時における資本金は四〇〇〇万円、その株式総数は八〇万株、株主は五、六十名であり、本件株主総会においては出席株主一〇名でその株式数一九万八九〇〇株、委任状による株式数三五万五九〇〇株、合計五五万四八〇〇株の議決権の行使により、全株一致をもつて本件株主総会決議がなされていることは、当事者間に争いがなく、そして、本件株主総会決議は、株主委員会の推せんする前記渡部ら五名を新たに取締役に選任するため既定方針のとおりになされた、いわば形式を整えるための決議であつたのであり、そのため当時被上告会社の代表取締役であつた河本喜頼においてすら右株主総会への出席につき大した関心を示していなかつたこと、右株主総会の議事は何らの支障もなく進行したものであること、並びに右株主総会に出席した大垣警察署勤務巡査前記広瀬定男も、右株主総会において出席の株主に対し決議の内容に影響を及ぼすような働きかけを全くしていないことが、それぞれ認められるというのである。

かかる事実関係の下においては、前記石川初次の代理人として、本件株主総会に出席した右広瀬定男による二〇〇〇株の議決権の行使は、被上告会社定款二条に違反するものと認むべきことは原判示のとおりであるが、その違法が他の大多数の議決権の行使に影響を与え決議の結果に異動を及ぼすような事情にあつたとは認められず、また、四〇〇〇株の株主である前記小松周海に対する本件株主総会招集通知の欠缺も違法たることは免れないが、たとえこの欠缺がなく右小松が本件株主総会に出席したとしても、これにより右株主総会決議を左右し得たとまでは到底認められないから、これまた本件株主総会決議の結果に影響を及ぼすというような事情にあつたものと認められないのであつて、このような場合には、本件株主総会決議に原判決判示のような違法があつたとしても、裁判所は、昭和二五年法律第一六七号による改正前の商法二五一条が同法律によつて削除された現行商法の下においても右違法が決議の結果に影響を及ぼさないことが明らかであることを理由として、決議取消の請求を棄却することができるものというべく(昭和二八年〔オ〕第一四三〇号同三〇年一〇月二〇日第一小法廷判決、民集九巻一一号一六五七頁参照)、右と同趣旨に出でた原判示は正当であつて、所論の違法は認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 高木常七 裁判官 斉藤朔郎)

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